2022.8.31

古美術商の看板を上げ、京都でショップをスタートして早や20年。開店以前の長い収集の年月や、オープン後の買付のための時間、、、自分でも呆れるばかりの時を「もの探し」「自分探し」に費やして来ました。思い返せば楽しいばかりの時間でしたが、気が付けばいつの間にか、古美術・骨董・ビンテージのマーケット事情も大きく様変わりしました。
これ!と心に響く良いモノは少なくなり、反比例するように価格は上昇線を辿ります。「需要が供給より大きい」状況を考えると納得の現象ですが、そんな変化の顕著なものが北欧のストーンウェアでしょう。

ストーンウェア(炻器)=高温焼成(約1200〜1300℃)で釉薬が胎土と一体化し、陶器や磁器に比べ、密に焼き締まった固くて重く丈夫な、文字通り石のような焼物です。
「美しいモノが人々の日常生活の質を高める」「Beauty for all」の信念に基づいた物作りは、北欧の製陶の分野にも大いに影響しました。大手製陶会社は工場内に工房を設立し、当代一流のアーティスト達(陶芸家に限らず彫刻家やグラフィックデザイナーなど)を国内外から迎え入れ、一点物や限定物のストーンウェアのアートピースの制作を本格的に開始しました。1930年頃の事です。
そして、シカゴ万博(1933年)、パリ万博(1937年)、また1950年代に米国、カナダを巡回した「スカンディナビア展」等を通して、北欧のストーンウェアが北米やヨーロッパの人々の興味、称賛を集め、今も’30〜60年代のモノの人気は絶大です。(ちなみに、米国のギャラリー・骨董店での人気のスタイル5選は、ルイ16世様式、アールデコ、バウハウス、ミッドセンチュリー、スカンディナビアモダンです)

 轆轤など手作りの良さを残しつつ、自然からインスパイアされた洗練された美しいフォルム。中国や日本の古い焼物から影響を受け、独自に発展させた様々な釉薬の色や表情(釉薬の専門家も工房で作業)。’30〜60年代のものは今見ても大変新鮮で、現代空間の中でも力強く存在感を放ちます。
私も大好きなジャンルのひとつですが、今の小さなパイの取り合いの様な現状に「もっと頑張って買っておけば良かった」と昔を懐かしんでも仕方ありません。今は「無理をせず、良い出会いがあった時だけ、、、」と、肩の力を抜いて下絵等にも目を向け、メッセやオークションなどで選んだのが写真のもの達です。