「ユキ・パリス ずっと、もの探し」
『ミセス』連載 2008〜2010年の続編です

No.2光を通して、、、。

ガラス、、、。何といっても、木や石、金属や陶器などと異なり、唯一光を通す(今日では正確には僅かな例外を除く)素材です。
20世紀の建築家、ル・コルビジェは「ヨーロッパの建築の歴史は窓との格闘の歴史だった」と言っています。実際、木造建築と違い、石やレンガを積み上げて作るヨーロッパの古い建物において、窓作りは非常に重要な課題でした。また、その窓に嵌めるものにも、長い格闘の歴史がありました。
雲母や水晶などの自然素材を使用したり、油を染ませた羊皮紙や蝋引き亜麻布、牛の膀胱の膜などを貼った時代もありました。そして、光に憧れ、渇望したヨーロッパの人々が、理想の窓を求めて行き着いたのが、丈夫で透明度高い板ガラスでした。
約5000年と言われるガラスの歴史の中で、鉱物をプラスする色ガラス作りは、早くから行われていました。しかし、不純物を取り除き、透明度を上げて、板状に作るのには数百年という年月がかかっています。装飾品や美術工芸、器、花器など、様々な技法を進化させ創造した、美術的なガラスの道とは別に、ひたすら「透明度を高める」道がありました。

デンマークに暮らし、ヨーロッパのあちこちを旅すると、実に多くのガラスを目にする機会があります。教会のステンドグラス(*1)、また、ビザンチン時代の教会のガラス片のモザイク壁画(*2)、ベルサイユ宮の鏡の廊下やシャンデリアなどなど。市中でもギャラリーやショップ、蚤の市、骨董メッセなどで新旧のガラス類がよく目につきます。

私はガラスのコレクターではないのですが、いつの間にか、我が家にも他の物に混じって、幾つかのガラスが集まってきました。私の選んだものは、遊び心あるものより、透明度が高く、ピュアでクオリティー高い、「光を感じさせてくれる」ものと言えます。形はシンプルに整い、しっかり厚めで丈夫なものが好みのようです。そして、同じようなものを幾つかまとめて、窓辺やソファ・テーブル、サイドテーブルやタンスの上に置いています。遠くからそれらを眺めると、光が集まり輝いているように感じられます。反対に近くで見ると、透明な中の豊かな表情やテクスチュアーが目を楽しませてくれます。そして、他のものと喧嘩せず、互いを引き立て合い、調和良く室内空間に収まってくれるのも嬉しいことです。
今回は、私が出会い求めた、光に満ちた透けるガラスの魅力の紹介です。

* 1:教会のステンドガラスは、大きさに限りあるガラス片を、やむを得ず鉛の枠でつなぎ合わせた窓からヒントを得たものです。現存する最古のステンドグラスは11世紀のバイエルンのアウグスブルグ大聖堂のもので、当時の人々は差し込む美しい光に、神を信じ、天上の世界を思い、法悦に浸ったことでしょう。

*2:数あるキリストの姿の中で、私は、イスタンブールのハギヤソフィァ寺院(本来は東方キリスト教の総本山)の壁のガラスモザイクのキリストが大好きです。端正で気高く、永遠に輝き続ける神がそこにあるようで、魂を込めて作られたキリストに感銘します。

写真説明:左上より時計回りに

1)半透明のガラス花器3点とピューター花器:半透明の柔らかな光が形を美しく際立たせる。手前右と左隣は表面に化学的処理を施し、割れた氷の様な光の陰影を表現した花器2種。2点ともにヤコブ・バング作、デンマーク、1930年代。右奥は、擦りガラスで半透明に仕上げた花器、ホルムゴード製、デンマーク、現代。左奥は、光を全く通さない素材、金属(錫製)のアール・デコ期の花器、スウェーデン。

2)銘々皿 “Honfleur “:ゼラニウム(天竺葵)で縁取りした、クリスタルガラスの平皿。プレスガラス技法、ラリック製、1950年代。

3)オプチカルクリスタルガラス花器:青の顔料を透明度の高いクリスタルガラスに入れ、ハンドカットの面取りの直線と、波を打たせた内側の曲線の重なりを見せる、オプチカル(視覚的)効果ある花器。オレフォス製、スウェーデン、1950年頃。オレフォスの透明度高いクリスタルガラスは名高い。

4)飾り鉢 “CHAMPS-ÉLYSÉES “:印象的で重量感あるプラタナスの葉のデザイン。透明、半透明の光の陰影が美しい。プレスガラス技法、ラリック製、1960年頃。

5)捻じりアリエール花器:透明ガラスに空気を入れ、それを捻じり、引き上げながら作った花器。デザイン:カイ・フランク、ヌートリヤービ製、フィンランド、1960年代。

6)気泡入りガラス3点:手前2点は、透明ガラスに白と黒のガラスを閉じ込め(グラール技法)、気泡を入れた(アリエール技法)オブジェ。奥はアリエール技法の花器。3点とも1960〜70年頃、スウェーデン。

2020年9月 ユキ・パリス

著書『ずっと もの探し』(文化出版局2011年発行)
http://books.bunka.ac.jp/np/book_mokuji.do?goods_id=5518