「ユキ・パリス ずっと、もの探し」
『ミセス』連載 2008〜2010年の続編です

No.7色のパワー

去年の12月初旬、友人から電話が入りました。話の内容は、「狭い所に引っ越しするので、大きなソファを手放したい」という彼女の知人の意向を伝えるものでした。私が「いつか、良い出会いがあればソファを替えてもいいナ」と、長い間思っていたのを覚えてくれていたのかもしれません。
色、素材、スタイルなどを聞いて、頭に描いたイメージから、「我が家に合うかも、、、」と直感に近いものがありました。小さなものなら一人でも決定しますが、家具など大きなものは、気に入らないからと無視も出来ない存在なので、一応、家族にも伺いを立てます。早速、夫と一緒に実物を見せてもらいました。現物は想像していたものと木の足だけが違いましたが(想像は角柱、実際は円柱の足)、それ以外は、思い描いたイメージ通りの、モダンな雰囲気の好ましいものでした。
今まで使ってきたソファは、夫の実家から35年前に譲り受けたオフホワイトの布張りで(一度、同色で張替えあり)、目の前にあるのは黒い革製です。ハードな雰囲気とソフトなもの、、、。一見真逆のイメージにも思えますが、「これなら我が家に連れ帰っても上手く収まってくれる」と半ば確信的に思えたのには、「色のパワー」という頼りがいある奥の手が頭にあったからです。

「色のパワー」、、、。バランスの取れた統一感ある空間は、落ち着きや、安らぎを醸し出してくれ、日々の暮らしの空間には、とても大切な要素です。しかし、我が家には、夫の実家からのもの、私が様々な所で出会い、手に入れた時代や国、素材や作り、スタイルも違う、何もしないとバラバラになってしまいそうな物たちが集まっています。それらを繋いで、統一感ある住まいにするために、色のパワーに頼るというのがあります。

「好きな色」、、、。50年前に私が日本を離れ、ヨーロッパのあちこちの国や街を見て回り、目を奪われたものは実に様々ありました。その中の一つに今回のテーマ、「色」も含まれています。色は気候や風土、文化、歴史の違いなどが、その地域固有の色文化を生みだします。それまで見慣れて来た日本の色とは異なる欧米の色や色調、豊潤な色数、また、組み合わせも気になりました。そんな中で私の琴線に触れる色がありました。ゴールドイエロー、マスタードイエローなどと呼ばれる温かい黄色系の色です。見るだけで何だか元気の出る色です。電車やバス、建物の外壁など単色でも様々な所で使用されていますが、他の色と合わせての使い方にも欧米ならではのものがあります。例えば、米国大統領執務室(オーバルルーム)のデスクの後ろのゴールドイエローのカーテンと青の絨毯。フランスの大使館内の黄色と青の調度品、スェーデンの黄色と青の国旗、etc、、、。明るく、ハッピーでノーブルなこの組み合わせは、金色の太陽と青い空、或いはイエス様の生誕地、ベツレヘムの空の青と輝く大きな金色の星を想起させるなど、昔から多くの人々に好まれ、使われてきた組み合わせです。また、輝きが更に増すような、黄色と白の組み合わせもよく使われます。そんな色使いが、私の心情としっくりくるようでした。それで、この黄色や白、青系の色の素敵な生地が見つかると手に入れ、クッションなどを作り、我が住まいの色による統一の要となっていきました。

我が家の応接セットは、揃いのセットではありません。1点ずつ、少しずつ増えた、寄り集まりです。白のソファ2個(今は黒革ソファ+白ソファ)がL字に黒のテーブルを囲み、その対面に黒の肘掛け椅子2脚と1脚、それにメタル製椅子が並んでいます。メインの色調はモノクロです。ここに、黄色・黒・白黒プリントのクッションで全体を繋ぎ、また、部屋の反対壁に、これも35年前に主人の実家から来た黄色の肘掛け椅子を置き(張り替えは自分で)、部屋全体を一つに纏めています。観音開きのドアを大きく開け放して続く他の部屋にも、この黄色を青や白と組み合わせて使い、一体感や広がりを出すようしています。

着るものも私の場合、スーツなどのセットではなく、様々なパーツを合わせて着用しています。黒や白、カーキ色など、基本の色は昔からあまり変わっていませんが、それにスカーフやベルトなど小物の色で彩りを出します。シンプルであれこれ迷わなくて、時間的にも助かる色頼みの私のスタイルです。

写真説明:左上より時計回りに

1)ヴィンテージの黒ドスキン地のジャケットに仙台平袴のスカート。イエロー・ゴールドブラウン・黒のプリントのエルメススカーフ。ブローチ:ストーン+銀製、スコットランド、20世紀初期。ネックレス:ユキ・パリスコレクションオリジナル。

2)縁あって新しく我が家に来た黒いソファ。モノクロのソファコーナーは、最初に後壁の絵(アルバート・ベテラン作)の入手がきっかけでこのコーナーの色合いになっていった。

3)ヴィンテージの黄緑+ゴールドブラウンのハリスツィードジャケットに、同色コンビのスカーフ(エピス、デンマーク)。スカートは見えていないが、ゴールドブラウンのフラノ地。

4)自分で張り替えた、夫の実家からの肘掛け椅子。もともとは、ティーテーブル・ソファ・肘掛け椅子3脚・椅子2脚の計7点揃いのセットだったが、知人の所望で、我が家には肘掛け椅子3脚だけを残した。オットマン(足置き)は砂色の麻で生地を張り替えたもの。肘掛け椅子上のプリントクッションはシルクスクリーンの麻。デザイン:M.G.Leth、20世紀中期、デンマーク。青のキルティングのスローは綿サテン地の古いフランス製。縞柄生地は手織り麻の寝具用生地、20世紀初期、デンマーク。

5)黒+カーキ色のウールカーディガン:コム デ ギャルソン。スカート:コテラック、フランス。スカーフ:ヴィンテージのウール、フランス、20世紀中期。ネックレス:ユキ・パリスコレクションオリジナル。

6)客用ベット上に置かれているクッションの数々。少しずつ見つけたバラバラな生地も、裏側生地で統一感を。後ろ中央の麻プリント生地:サンダーソン社製、イギリス、1970年頃。家紋入りウール糸ニードルワーク(クロスステッチで全面埋めたもの)は、椅子の座面だったものを外してクッションに。他の小さなニードルワーククッション2点:デザイン G・ベングドソン、20世紀中期。

2021年2月 ユキ・パリス

著書『ずっと もの探し』(文化出版局2011年発行)
http://books.bunka.ac.jp/np/book_mokuji.do?goods_id=5518