「ユキ・パリス ずっと、もの探し」
『ミセス』連載 2008〜2010年の続編です

No.3自然を愛でる

鶏が先か?、、卵が先か?、、、これは、我が家に鎮座する珊瑚や石を眺め、ふと、「なぜ、私の住まいやショップに自然のモノが集まってきたのか」と浮かんだ自問です。出会いがあり、入手したという“モノ有りき”からなのか、それとも、特別に意図して探し出した結果なのか、、、と。

ヨーロッパには、昔から、膨大な数の植物、鉱物、動物など自然界の創造物が、世界中から集められています。それらは大切に分類整理、保管され、一般に公開されています。例えば、ロンドンには250以上の博物館、美術館があると言われますが、その中の世界遺産の植物園 “キュー・ガーデン” (1751年開園)は、3万種を超える植物を有し、大英自然歴史博物館(1753年、大英博物館の一部として開館)に至っては、その収蔵数は7,000万点余で、年間の入場者も前者は150万人、後者は450万人という、途方も無い数字です。

それでは、「なぜ、これ程の自然界のモノを、収集したのか」。この問いに浮かび上がる答えが、啓蒙時代(17世紀末〜18世紀全般)という社会背景です。キリスト教の「神が世界の万物の創造主」という「創造論」に支配されていた中で、この時代は聖書や教会を離れ、自然と人間の関係を再び見直し、自然科学に目覚め、キチンと自然と向き合った時代です。学術や産業が振興され、数々の大百科事典の編纂や学術的な功績が多く生まれました。その流れに続いて、世界地図作製のため、1831年に船出したビーグル号に乗り込んだダーウィンが、5年近い航海で、採集、研究して著した『種の起源』によって、「進化論」を説き明かしたのはあまりにも有名です。

そんな自然への関心の高まりは一般の人々にも広がり、個人レベルでの収集がインテリアを飾り、それらが、今も骨董店など市中に出てくることがあります。私はそれらを見て、惹かれ、入手したのか、又は、雑誌の写真や知人の家を見たりして、自然のモノを彫刻やオブジェとして取り入れている素敵なインテリアに、「私も、、、」と、存在感やサイズ感、美しさなどを確かめながら探し出したのか、、、。自然のモノとの付き合いの始まりが何であったのかは、古い記憶を辿ってみても、今となっては、遠い霧の中の事のように曖昧です。どうも後者であるような、、、いや、前者でもあるような、、。
いずれにしても、自然をインテリアに取り入れると、子供を含めた客人との会話や、インテリアの幅、そして、自分の世界の広がりが生まれ、眺めて飽きることのない楽しいモノたちです。

日本の自然のモノ
美しい肌合いの竹や木や根を見つけ、それを材料に、茶杓や花入れ、根木の台などを作ったり、盆栽や石の模様や形などを、山や滝など自然の景色と見立て鑑賞する(=水石、起源は中国)、自然を愛でる文化、伝統が日本にも多くあります。学術的、科学的というより、美的で詩情豊かで、今日では、自然の大切さに気付かせてくれる、暮らしを豊かにしてくれるモノです。
私はショップにも、日本の自然も多く取り入れて、什器や商品の視覚的な説明として使っています。それを見た外国からのお客様などが、よく、売り物でないこれらのプライスを尋ねられます。すると私は、「アァ、貴方も自然のモノに惹かれるのですね」と内心、仲間意識を感じたりします。
皆さんも何か見つけたら、ご自身のインテリアに取り入れてみて下さい。近くに毒々しい色柄のプラスチックのお菓子袋などがあると、一目で美醜の違いが分かり、その気付きが美的な生活への入り口になるやも、、、。

 

写真説明:左上より時計回りに

1)ソファ左の白のサイドテーブルの上の水晶。
長さ26cm、重さ3.5kg

2)最小限に整理して磨いた根木の台に乗る、ラリックの鉢。台:明治時代。

3)ソファ右のサイドテーブル上の白いサンゴ。
高さ27、幅38、奥行き32cm、重さ3.7kg

4)日本の米沢箪笥の上の陶器やブロンズなどと並んだ、アンモナイトや珊瑚など。
中央の青磁のストーンウェア花器:作Arne Bang 、1930年代、高さ24cm。ランプは結晶釉のフランス、アールヌーボー期の花器だったもの、1900年代初期。後ろ壁には日本の漆塗り額に面取り鏡を入れて。右端ストーンウェア製女性坐像:作L.Hjorth、1940年代、デンマーク。

5)小さいものは、まとめてひとつに。古い大きな白い皿に貝や雲母、水晶など自然のモノと人の手になるものを集合させて。
皿:フランスの魚用陶器、19世紀中期、長さ64cm

6)「よくぞこの材料を見つけ出した」と唸ってしまう、焦げ茶色の斑の出方が絶妙な竹の掛け花入れ。
作:裏千家八代 又玄斎一燈宗室(1719-1771)、銘:「手始め」、共箱。

2020年10月 ユキ・パリス

著書『ずっと もの探し』(文化出版局2011年発行)
http://books.bunka.ac.jp/np/book_mokuji.do?goods_id=5518