「ユキ・パリス ずっと、もの探し」
『ミセス』連載 2008〜2010年の続編です

No.6魅惑のゴールド

マルコ・ポーロが「中国大陸の東の海に、宮殿(*1)や民家が黄金で出来ている島があるようだ」と、『東方見聞録』(13世紀末)に伝え記した「黄金の国ジパング」。これにより、日本がヨーロッパに紹介され、コロンブス達は日本を目指し船出しました。しかし、地球の大きさを知らず、また、「西廻りで進めば、いずれ東に到着する、、、」と考え、西に舵をきったことで、最初に到着した陸地=アメリカ大陸を発見したことは有名な話です。その後の大航海時代にも、アンデスにあるとされた黄金郷(=エル・ドラド)への長い航海に船主達を駆り立てたのも「黄金」でした。

人類が金を見つけたのは7,000〜8,000年前と言われています。その輝く美しさや、錆びや劣化が少ない特性から、不滅で永遠のシンボルともされ、また、その希少性(埋蔵量に限りがあり、採掘困難)から、今日に至るまで、世界中の人々を魅了し続けて来た特別な金属です。
溶解や型作り、叩いて伸ばす金箔作りなどの金加工は、ツタンカーメンの黄金のマスクからも解るように、古代エジプトではすでに始まっていました。交易の取引のための金貨も、紀元前8世紀ごろには作られ、さらに、錬金術(化学的に非金属の物質から、金や他の金属を創り出そうとした試み)も、エジプトからアラビア、ヨーロッパに伝わり、磁器製造(*2)や、プレート(メッキ)技術など様々が試みられ、それが、ヨーロッパの化学を発達させる結果に繋がったと言われています。こうして発見以来、その普遍的な価値や嗜好は、今も変わることなくグローバルに続いているのが、今回のテーマの金です。

装飾品に限らず、(アクセサリーはまたの機会に、、、)西洋文化には、金や銀、また真鍮や錫、銅など、暮らしの中にも多くの金属製品(例えばカトラリーやトレー、ピッチャー、ポット、家具、室内装飾品など)が使われて来ました。そして、アールヌーボーやアールデコといった時代の様式があるように、金属の種類の好みにも流行があったのは、大変興味深いところです。最近では、家具やプロダクツ、インテリアスタイルも、金色・銀色・銅色、、、と、金属としてではなく、まるで単に一つの色として扱われる傾向があり、流行の変化の波も短く、デザイン・インテリア関係の本や雑誌で傾向を知るのも楽しい事です。この傾向は、技術の発達に伴って、様々な仕様や量産が可能になったからなのでしょうが、かつての特権階級の人だけでなく、また、資産的価値としてでもなく、広く、気軽に楽しまれているのが、現代の流行の姿です。私のデンマークの友人は、古い銀や錫などの銀色系の物を集めていて、それも素敵なものですが、金・銀、どちらかと言うと、私は落ち着いた華のある金色系に惹かれるようです。様々に出会い、集まった金色をした物のいくつかをご紹介します。いつものように、古今東西、スタイルの違うものなどを様々にミックスし、また、本来の使い方でない物もあり、その物選びやミックスの仕方は、実に私流ですが、、、。そして、周りを見渡せば、まだまだ魅惑的なゴールド色をしたものは見つかりそうです。

* 1:平泉中尊寺金色堂のことだとされています。

* 2:ヨーロッパの王侯達が錬金術師に磁器製造を命じて競っていた中、ドレスデンのアウグスト王が1709年、ヨーロッパで最初に磁器製造に成功。

写真説明:左上より時計回りに

1)ステンレス変形果物用平鉢をトレーとして、その上に極薄金彩磁器の鉢4点。お客様時のナッツなど、おつまみ入れに使用。鉢 デザイン:ヴィオリース、制作:ロイヤルコペンハーゲン社、デンマーク、現代。
平鉢 デザイン:アルバー・アールト、制作:フィスカス社、フィンランド、現代。

2)ソファテーブル上の蒔絵文箱と硯箱。文箱:江戸末期。硯箱:江戸末〜明治初期。マッチやキャンドル入れに使用(2点とも、デンマークで見つけた)。高杯形真鍮菓子盛り皿:20世紀初期、ドイツ。

3)ブロンズにゴールドプレート製8本アームの天井照明、1800年代中期、フランス。典型的なナポレオン3世時代のもので、花や蕾が一つずつ取り外し出来る。20年以上昔に、シンプルで良質で落ち着きある華が気に入り、オークションで落札したもの。

4)金地に黒のアクア・チント印刷のアルヴィン・エイリー・バレエ団NY公演ポスター、1974年。写真では見辛いが、ダンサー達の手書きサインが。シンプルなデザインとオーケストラ色(黒い服装、金髪、金管楽器)を思わせる、黒と金の2色使いが端正で気に入り購入。

5)タンス上のクリスタル+金のビータマイヤー時代のゴブレットなどの集合。全て19世紀中期のボヘミア製。日本の仏花を拭きガラスケースに入れて。ケース:フランス。ランプスタンド:フランスのジャポニズム、1800年代末。

6)食卓の上の飾り。中央:19世紀中期の金彩磁器のステムと台(上部の鉢部は破損したのだろう)、ドレスデン製。その上の金粉入りガラス鉢、現代、スェーデン。鉢の中:ルチルクォーツ製ぶどう形置物、中国、20世紀中期。左奥:真鍮製盛り皿(トレー?)。右:ロイヤルコペンハーゲン社製平盛鉢、現代。

2021年1月 ユキ・パリス

著書『ずっと もの探し』(文化出版局2011年発行)
http://books.bunka.ac.jp/np/book_mokuji.do?goods_id=5518